手紙7「歌っちゃだめだよ。聴かせてほしいんだ。」(安達充)

9月1日(土)のアーティストフォーラム2018まであと少し。

ライブ当日まで、「なぜ自分がアーティストフォーラムをやるのか?」ということについて、

たった一人に向けての手紙形式で綴っていきたいと思います。


 

安達充です。

10年前にアコースティックベストアルバム『Song Letter Artist』を発表してから、ちょうど10年が経とうとしています。

あのアルバムに『僕が生まれた時のこと』を収録したことから僕の音楽活動が広がっていったので、あの時のご縁に今でも感謝しています。

 

平野秀典さんの出版記念公演で、あなたと初めてお会いしました。

「今日の公演、音響業界の重鎮の人が来るんですよ」

という一言にどんな方なんだろうと思っていたら、とても柔和な笑顔で接して下さり、とてもリラックスできたことを覚えています。

 

前の方の座席でずっと演奏を聴いてくださり、公演が終った後に声をかけてくださいましたね。

「もし、君がCDを出したいのであれば、僕が録音してあげるよ」

まさに渡りに船のような提案に、心が躍りました。

 

ところが、そのレコーディングが『一発録り・加工編集ほぼゼロ』という形態に決まった時は、正直背筋が凍りました。

今の音楽業界は、多重録音・加工編集(ピッチ補整も含む)が当たり前。

そんな中で、特に技術を売りにしているわけでもない自分が、丸裸にされるようなレコーディングをすることになるとは夢にも思いませんでした。

 

そこから半年間、ボイストレーニングに明け暮れました。

そして、レコーディングの1週間ほど前に、スタジオで録音したデモ音源をあなたに送った時、あの一言を言っていただきました。

——安達くん。歌っちゃだめだよ。聴かせてほしいんだ。——

 

特にその意味を解説するでもなく発せられた一言に、僕は最初、意味がわかりませんでした。

ただ、『この中には絶対に、今の自分に必要なメッセージがある』ということだけはわかりました。

自分なりにいろいろ考えながら、結局答えが出ないままレコーディング当日を迎えました。

 

一発録音ゆえ、用意されたマイクは超高性能。

咳払いや唾を飲み込む音なんかはもちろんのこと、重心を移動した時のわずかな地面のきしみまで拾ってしまうことに戸惑いました。

そして1曲目の録音が始まったとき、ヘッドフォンから聴こえてくる自分の声に違和感を覚えました。

 

録音したテイクを聴いてみて、違和感の理由に気づきました。

それまで僕は感情が乗れば乗るほど、「声を張り上げたり、がなったりする」傾向がありました。

でも、超高品質なレコーディングを経験して感じたのは『なんて押し付けがましい歌なんだ…』ということでした。

 

そういうことだったのか。

「歌う」という行為の主語は自分だけど、「聴く」という行為の主語は相手。

メッセージを伝えようと、がなってしまうのは、自分本位になっているからだ。

 

「歌は誰のもの?」と言ったならば、当然聴く人のためのもの。

それが、「歌っちゃだめだよ。聴かせてほしいんだ」という言葉に込められたメッセージだったのではないか。

そう気づかせていただきました。

 

最終的に、僕が出した結論は、「目の前のマイクの位置が、聴いてくれる人の耳だったらどう歌うか?」でした。

翌日、そう思って歌ってみたら、かつてないくらい丁寧に歌っている自分がいました。

あの時から、聴いてくれる人のことをイメージしながら歌えるようになったと思っています。

 

音源を聴きなおしてみて、その差は歴然でした。

「こんな歌が自分に歌えることがわかった以上、もう一度、歌を録りなおさせてください」

あなたがそれを了承してくださったことで、レコーディングは再度の仕切りとなり、結果として納得のいく作品を作ることができました。

 

まだ駆け出しの僕に、何かの可能性を感じてくださり、レコーディングの機会をくださったこと。

そして、答えを直接言わずに、「自分で考えなさい」と大きな問いを与えてくださったこと。

さらには、超高性能のレコーディング環境を用意して、自分自身で気づける場までくださったこと。

どれをとっても、感謝の気持ちでやみません。

 

今はアーティストフォーラムという場で、歌について自分の経験を伝えることもしています。

あなたから教わったメッセージは、僕の根底を形作ってくれています。

まだまだ自分自身、伸び代しかない発展途上の身ではありますが、あなたの教えを大切に伝えていきたいと思っています。

#アーティストフォーラムまであと36日

アーティストフォーラム2018、9月1日(土)大田文化の森ホールにて開催決定!
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アーティストフォーラムとは?(初めての方へ)

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